特定化学物質作業主任者の資格とは? 取得方法・業務内容を解説
特定化学物質を扱う現場には、特定化学物質作業主任者の資格を持つ人を置かなければいけません。そのため、特定化学物質作業 主任者を取得しておけば、工場で働く際に役立つでしょう。
比較的簡単に取得できる資格であり、活躍できる場面は少なくありません。この記事では、特定化学物質作業主任者の概要や業務内容、資格の取得方法を紹介します。
特定化学物質作業主任者の資格とは
特定化学物質作業主任者とは、厚生労働省が認定する国家資格です。
健康に被害を及ぼすリスクのある化学物質から、労働者を守るための役割を担っています。特定化学物質を取り扱う現場では、必ず特定化学物質作業主任者の有資格者を設置しなければいけません。
特定化学物質作業主任者の資格取得の方法
特定化学物質作業主任者を取得するには、技能実習の講習を受ける必要があります。都道府県労働局長に登録した者が実施する「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」を修了することが、資格の取得条件です。
労働安全衛生法第14条・安衛法第6条、18号、20号の規定では、講習を修了した者の中から特定化学物質作業主任者を選任することを事業主に義務付けています。選任された作業主任者は、現場で作業の指揮などを行わなければいけません。
技能実習の講習について
技能実習の講習は2日間行われます。講習を受けた後は筆記試験による修了試験を受験して、合格すれば資格を取得できます。
技能実習の講習内容は、以下の通りです。
- 健康障害及び予防措置に関する知識
- 作業環境の改善方法に関する知識
- 保護具に関する知識
- 関係法令
講習はテキストにそって実施されます。そのため、講習に申し込んだ後に指定のテキストを注文しましょう。
労働安全衛生法別票第20第11号に基づき、講義は有資格者の講師が担当します。講習の時間や科目、カリキュラムは「化学物質関係作業主任者技能講習規程」に基づいて決められたものです。
1日目の最初にオリエンテーションと概要の説明があり、その後、各講習が実施されます。2日目の最後に1時間の修了試験を受験すれば、講習の全日程が終了です。
受講可能な要件
作業主任者技能講習の受講資格に、とくに制限はありません。
ただし、18歳以上の方のみが受講できます。年齢制限は、労働基準法第62条、年少者規則第8条によって定められいますので注意してください。
特定化学物質とは
特定化学物質とは、体内に取り込むと労働者に健康障害を発生させるリスクの高い物質です。労働安全衛生法により定義されおり、作業主任者は同物質による被害を避けるための対策を取らなければなりません。
特定化学物質は、第1類から第3類まで分別されています。とくに有害性の高いものが、第1類です。第1類の化学物質に関しては、厚生労働省の許可がないと製造できません。
第2類は、第1類ほどではなくとも有害性の高い物質です。第3類に分類される化学物質は、大量に漏れ出たときに急性中毒を起こす可能性があります。
特定化学物質について、第1類から第3類まで詳しく見ていきましょう。
第1類:とくに有害性が高いもの
第1類に分類される化学物質は、主に以下のようなものがあります。
- ジクロルベンジジン及びその塩
- アルファ-ナフチルアミン及びその塩
- 塩素化ビフェニル(別名PCB)
ジクロルベンジジンは主に媒染剤やゴム、薬品、有機合成原料として用いられます。発がん性があり、非常に有害な化学物質です。
アルファ-ナフチルアミンは、ゴムや薬品、有機合成原料、アゾ系染料などに用いられます。引火性・爆発性があり、燃えると有毒なNOxを出すため危険な化学物質です。
塩素化ビフェニルは、かつて電気機器用絶縁油や塗料、印刷インキの溶剤などに活用されていました。体内に取り込まれやすく、残留性が高く、皮膚障害など慢性毒性が認められたため、現在は規制されています。
第2類:有害性が高いもの
第2類に分類される主な化学物質は、以下の通りです。
- エチレンオキシド
- エチレンイミン
- クロロメチルメチルエーテル
- 塩化ビニル
- ベンゼン
- 酸化プロピレン
- クロロホルム
エチレンオキシドは、ポリエステル繊維や洗剤などの原料となる物質です。猛毒であり、空気中で爆発する性質もあるため、厳重に管理しなければなりません。
エチレンイミンは、農薬やポリエチレンイミンの原料として使われています。引火性が高く、取り扱いに注意が必要です。
第3類:大量に漏れると中毒を起こすもの
第3類に分類される化学物質の代表的なものは、以下の通りです。
- 一酸化炭素
- 二酸化硫黄
- 硝酸
- 塩化水素
- アンモニア
- フェノール
一酸化炭素は一般家庭でも中毒の被害が多い化学物質です。無色・無臭のため、知らずに体内に取り込み、頭痛や吐き気、耳鳴りを引き起こします。
二酸化硫黄は眼や上気道に強い刺激を与える化学物質です。結膜炎や呼吸困難、胸痛などの症状を引き起こします。
特定化学物質作業主任者の業務内容
特定化学物質作業主任者が担当する主な業務は、以下の通りです。
- 作業方法を指導・決定する
- 安全保護具の使用状況を監視する
- 予防装置を点検する
労働者を危険から守るため、作業主任者が作業方法の指導・決定を担当します。他にも、安全保護具の使用状況の監視や予防装置の点検も重要な役目です。
特定化学物質作業主任者が取り組む業務について詳しく説明します。
作業方法を指導・決定する
作業主任者は、特定化学物質を扱う現場で、労働者の汚染を防ぐために作業方法の指導と決定を行います。労働者が健康障害を引き起こさないための重要な業務です。
特定化学物質は、種類により性質が違うため、取り扱い方や注意点などが大きく異なります。該当する特定化学物質について、どのようにすれば安全に取り扱えるのか、労働者にきちんと指導しなければなりません。
また、具体的にどのような方法で作業を進めるのか、専門家としての立場から作業方法を確立します。決定した作業方法に従って労働者が作業を進められるように指揮するのも大きな役割です。
作業方法を周知させて、理解度を深めるための工夫をすることも重要になります。一人でも作業方法を守らない労働者がいれば大惨事につながるため、作業主任者の責任は重大です。
安全保護具の使用状況を監視する
作業主任者は、安全保護具を労働者に使用させるだけではなく、それらが適切に利用されているかの使用状況を監視しなければいけません。安全保護具は、労働者が特定化学物質に汚染しないように装着します。
安全保護具には、保護帽や保護メガネ、呼吸用保護具、防護手袋、防護服など、その種類は数多くあります。それぞれの作業環境に合わせて最適な保護具を選ばなければなりません。
安全保護具は適切な使い方をしていないと効果がなく、気がつかないうちに特定化学物質に汚染されてしまうこともあります。
作業主任者にとって安全保護具の使用状況の監視を徹底することは、非常に重要な職務です。
予防装置を点検する
作業主任者は、労働者が化学物質に汚染されて健康を害することがないように、予防装置の点検を行い、装置が安定して稼働するかを確認します。予防装置の点検は1カ月ごとに行わなければなりません。
有害物質を含む空気を吸い込む装置や、有害物質を含む気体の分離・除塵を行う装置など、予防装置にはさまざまな種類があります。予防装置がきちんと稼働しなければ、有害物質が空気中に残り、非常に危険です。
予防装置の点検では、装置の損傷やホコリの堆積状態、吸気・排気の能力など、さまざまな項目をチェックします。点検時に装置の異常を認めたときは、速やかに補修しなければいけません。
特定化学物質作業主任者の予防装置の種類と機能
作業主任者が点検をする予防装置には、主に以下のようなものがあります。
- 局所排気装置
- 排ガス処理装置
- プッシュプル型換気装置
- 除じん装置
- 廃液処理投資
局所排気装置とは、有害物質の発生源の近くに設置して、空気を吸い込む装置です。気流を作ることで有害物質の拡散を防ぎます。
排ガス処理装置は、有害物質を含む気体の分離・除塵を行って、室内の空気を無害化・無臭化する装置です。除害装置やスクラバーとも呼ばれます。
プッシュプル型換気装置は、有害物質の発生源に空気を送り込み、もう一方の装置で有害物質を吸い込む仕組みの装置です。
除じん装置は除塵機や集塵装置とも呼ばれ、空気中の粒子を分離して集じんします。局所排気装置やプッシュプル型排気装置の排気に含まれる有害物質の回収・分離のために除じん装置が必要です。
廃液処理装置は、排水に含まれる有害物質を処理できます。廃液には有害物質が多く含まれるため、適切に廃液を処理するために重要な装置です。
四アルキル鉛等作業主任者の資格取得について
四アルキル鉛等作業主任者は、四アルキル鉛を扱う事業所で設置が義務づけられている資格です。
四アルキル鉛は、特定化学物質とは別の物質であり、体内に取り込むと中毒症状を起こします。四アルキル鉛等作業主任者は、四アルキル鉛から労働者を守るための業務を担う立場です。
ここでは、四アルキル鉛等作業主任者の詳細や資格取得の方法について説明します。
四アルキル鉛等作業主任者とは
四アルキル鉛等作業主任者は、労働者が四アルキル鉛による汚染・蒸気の吸引の被害を受けるのを防ぐための資格です。
作業方法の決定や労働者の指揮、換気装置の点検、保護具の使用状況の監視などを行います。四アルキル鉛による中毒の恐れのある場所から労働者を退避させて、除染作業を行うのも重要な役割です。
四アルキル鉛中毒になると、頭痛やめまい、嘔吐といった症状があります。重症化すると錯乱するケースや、血圧降下により死に至ることもあるため、四アルキル鉛は日所に危険な物質です。
そのため、四アルキル鉛等作業主任者は、四アルキル鉛による正しい知識に基づいて労働者を守ることが求められます。
資格取得の方法
四アルキル鉛等作業主任者と特定化学物質作業主任者の技能講習は、内容が同じです。各都道府県の労働局長に登録する者が実施する「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」を受講して修了すれば、資格を取得できます。
四アルキル鉛等作業主任者と特定化学物質作業主任者の2つの資格は、同時取得が可能です。
まとめ
特定化学物質を扱う事業所で作業主任者になるためには、技能実習の講習を受けて特定化学物質作業主任者の資格を取得しなければなりません。作業主任者になれば、作業方法の指導・決定や予防装置の点検などの業務に携わることができます。講習の受講だけで取得できる資格であるにもかかわらず、多くの現場で役立ちますので、取得しておいて損はありません。