SIerに将来性はある!ITエンジニアの需要が見込まれる理由7つ
SIerはクラウドサービスの台頭やスキルが身につかないことなどから、将来性がないと言われがちです。しかし、DXの需要拡大、金融機関・官公庁からの大型案件などを理由に、SIerのITエンジニアは今後も一定の需要があるため、将来性が見込めると言えます。本記事を読み、SIerに将来性の有無や、ITエンジニアが将来性を高める方法を知り、今後も企業に求められるIT人材となる第一歩を踏み出しましょう。
SIerとはなにか
SIer(エスアイヤー)とは、システムインテグレーターの略称で、顧客企業の要望に合わせてシステム設計、開発、運用を請け負う企業を指します。ITシステム関連業務の上流工程から携わることができることが特徴です。下記では、SIerの主な種類を解説します。
SIerの種類5つ
SIerは顧客企業との関係や、仕事内容から下記の5つに大別できます。
- メーカー系…製造メーカーから派生したSIerで、親会社のソフトウェアを組み合わせた新たなソフトウェアやハードウェア、システムなどの開発を行います。
- ユーザー系…システム系ではない親会社やそのグループ会社のシステムを開発するSIerです。親会社は、商社や金融などが多いです。
- 独立系…独立経営のSIerで、親会社や関連企業の縛りがない分、幅広い業務を請け負うことが特徴です。
- コンサル系…コンサル面もカバーするSIerです。コンサル企業がサポートを広くしていった結果SIer化したケース、SIerが顧客のコンサル業をも担うに至ったケースがあります。
- 外資系…海外拠点IT企業の日本法人SIerです。外資系SIerが自社開発をすることはあまりなく、その企業のライセンスを持つ他企業がシステムを開発することが多いです。海外で開発されたソフトウェアを日本法人に導入するなども行います。
SIerとSES・SEの関係とは
SIerと混同されがちな用語として、SESとSEが挙げられます。SESは、システムエンジニアリングサービスの略で、エンジニアを顧客企業に派遣するサービスのことを言います。SEはシステムエンジニアのことを指し、システム設計や開発を行う人やまたはその職種名のことです。SEの多くはSIerに所属し、システム開発をしています。
SIerの将来性がないといわれる理由7つ
様々な分野でIT化が進み、システム開発業務の需要は高まっているのにも関わらず、SIerには将来性がないと言われています。下記でその理由を解説します。
クラウドサービスが代用される
システムを運用するにあたって、独自システムではなく、クラウドサービスが代用されることがあります。SIerはクライアント企業の要望に沿った独自システムを設計、開発、運用することが特徴です。しかし、わざわざ1から設計せずとも似たようなシステムがクラウド上で提供されていることがあり、そちらで代用してしまう企業もあります。クラウドサービスは比較的安価で、インターネットさえ利用できればPC、タブレット、スマートフォンなど複数の端末で使用できるものもあり、便利に感じます。ただし、企業の業態に必ずしも合致するとは限りません。また、不具合があったときにすぐにメンテナンスされるかわからないため業務が滞る可能性や、セキュリティ面での不安もあります。しかし、SIerであればクライアントごとに独自のシステムを設計、開発できることはもちろん、保守・運用も実施できるためシステムトラブルが起こったとしても速やかに解決できます。
ビジネスモデルとトレンドにずれがある
従来のSIerのビジネスモデルはトレンドとズレがあることも、将来性がないと言われる理由の1つです。近年のシステム開発は、最初から大きいシステムを構築せず、機能が限定された小さなシステムで試行しながら状況にあわせて組み替える、マイクロサービスやスモールスタートなどが主流です。一方、SIerは発注コストが高くなる傾向があり、さらに、莫大なコストをかけて作ったシステムが全くのミスなく想定通りの結果を生み出すかは、運用してみないとわかりません。しかし、「コストをかけて作ったシステムが、見合った効果を出す保障はない」点は、SIerに限った話ではありません。また、マイクロサービスやスモールスタートでは、システム統合がしにくい、システムを拡大していくと複雑になりやすいなどのデメリットもあります。
スキルが身につかない可能性がある
SIerに勤務していても、SEとしてのスキルが身につかないケースもあります。SIerではシステム開発そのものに関わる仕事以外に、資料作成や顧客とのやり取り、納期管理などのマネジメント業務があり、そちらをメインに任されるかもしれません。エンジニアとしてスキルアップをしたくても、望んだ業務に就けない可能性があります。ただし、仕事内容は勤務先によるため、応募時に仕事内容を確認しておきましょう。また、SIerによっては、スキルを伸ばしやすい環境、企業風土である場合も多いです。エンジニアとしてのスキルアップを目指すのか、それ以上にマネジメント能力を伸ばしキャリアップしたいのかで、目指すSIerは変わってくるでしょう。
付加価値のある企画の提案が難しい傾向がある
SIerの事業形態ならではの課題として、付加価値を付けて提案することが難しい傾向にあります。SIerは、クライアントに合わせてオーダーメイドでシステム開発を行います。その際、忠実にクライアントの要望を実現することを優先し、SIer側で新たな機能を提案したり、付加価値をつけて企画を打ち出したりといったことはあまり行われてきませんでした。しかし、そもそも付加価値のある提案は、顧客の希望をすべてクリアしていることが前提です。SIerで経験を積めば、顧客の提案を実直に形にできる技術が身につけられます。その上で、他業種に転職した際に付加価値をつける提案ができれば顧客満足度が高まるでしょう。
多重下請け構造からの待遇の悪さがある
システム開発の現場は、多重下請け構造になっていることが多く、それが待遇の悪さを生み出していることもあります。多重下請け構造とは、大元のクライアントの依頼を受ける企業の下に、複数の下請け企業がいる状態を指します。SIer以外でも同様ですが、下に行けば行くほど、待遇が悪くなる傾向があるのです。そうした下請け企業では、優秀なエンジニアがいても待遇や労働環境の悪さを理由に退職してしまい、残ったエンジニアに負担がかかります。しかし、下請け企業でも経営者の手腕や職場環境によっては、働きやすく好条件で雇ってもらえるケースもあります。また、上流工程や元受けに近い企業の場合、マネジメントを任されてしまい、システム開発業務に携われないかもしれません。下請け企業のほうが、プログラミング業務には携わりやすいでしょう。
優秀な人材が不足している
SIerではスキルアップが困難、労働環境があまりよくないといったことを理由に優秀な人材が離職してしまい、人材が不足している状況です。経済産業省の「第4次産業革命スキル習得口座認定制度(仮称)に関する検討会」で出された参考資料「IT人材育成の状況等について」では、2019年をピークにIT関連産業への入職者が減少しているとの報告がありました。さらに、IT人材の年齢は2030年まで上昇し続け、高齢化が進むと予想されています。高齢化により年功序列制度が継続され若手が入りにくくなれば、ますます人材不足が進むでしょう。しかし、人材不足の状況は、若手エンジニアが参入しやすい状況でもあり、SIer人材の重要は今後高まる可能性が高いです。
海外進出は難しい傾向にある
海外では自社のシステム開発部門でシステムの設計、開発、運用、保守を行うのが主流です。したがって、日本独自のビジネスモデルであるSIerは、海外展開がしにくい状況にあります。開発から運用まで全て外注するケースは、海外では珍しく、システムの一部を外注することにとどまっています。一方、国内ではシステム開発の需要は高く、SIerが求められる場面は多いと言えるでしょう。
SIerの将来性がある理由7つ
SIerの課題を上述しましたが、それを踏まえて、改善されつつある点やSIerならではのメリットを見ていきます。下記で、SIerに将来性があるとする7つの理由を解説します。
DXの需要拡大が追い風になる
DXの需要拡大により、SIerの需要も高まると考えられます。DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略称で、ITの活用でよりよい生活を送れるように変化させる概念のことです。企業にとってのDXとは、従来のシステムからの脱却を図り、業務フローの改善や新しいビジネスモデルを生み出すことを言います。そのため、企業がDXに対応するためには、古いシステムを刷新する必要があります。大幅にシステムを刷新するには、金融機関や公的施設のような大規模なシステムを構築しているSIerの技術が求められることになるでしょう。
金融機関や官公庁から大型案件をもらえる
90年代にシステム開発需要が高まったことを背景に、SIerは政府主導でスタートした歴史があり、金融機関や官公庁などから大型案件を受注しやすい土壌ができあがっています。実績と信頼があるSIerはそのような大きな仕事を定期的に受注するため、利益も確保しやすいです。
働き方改革により労働環境が改善されつつある
SIerの人材不足の一因に労働環境の悪さがありましたが、昨今の働き方改革により改善されつつあります。特に、下請け企業のSIerでは待遇が厳しくなりがちで、エンジニアが離職してしまうケースが多いのが実情でしたが、働き方改革関連法により、長時間労働の是正や中小企業の残業代の引き上げ、年次有給休暇の消化義務などの対応が求められるようになりました。実際に、ディップ株式会社により行われたアンケートによれば、働き方改革により長時間労働が改善されたと実感しているエンジニアは4割近くいました。
今後、労働環境がさらに改善されていけば、SIerが働きやすい職場としてエンジニアに選ばれる可能性が増えるでしょう。
従来のSIerから脱却した収益の確保が進んでいる
これまでのSIerのやり方から脱却し、既存システムの新たなプラットフォーマーを目指して海外でビジネスを展開させているSIerもあります。中小企業のSIerであれば、大手企業のSIerの下請けと並行して自社開発を行うなど、柔軟な仕事が可能です。その身軽さを活かし、SIerとして生き残るために様々な方法を模索してビジネスチャンスをつかもうとしている企業もあります。そのようなSIerにより、向上心を持って取り組めるエンジニアの需要が高まることが予想されます。
大規模なシステムの構築が求められている
独自システムの代わりにクラウドサービスを利用する企業もありますが、クラウドサービスは、大規模なシステム構築には向いていないことが欠点です。したがって、大手企業で巨大なシステムを開発、運用したい場合はSIerに頼ることになります。システムが大きければ大きいほどクラウドサービスでは代用できず、専門性の高いSIerの技術と経験によるシステム開発や運用が求められるため、SIerの需要はなくならないでしょう。
システムの需要は今後も見込まれる
日本では、ITシステムの導入からしばらく経っており、古いシステムのまま運用されているケースが多いです。古いシステムのままだと業務効率が下がり、企業に悪影響を及ぼします。そこで、システムを新しくする際に活躍するのがSIerの技術です。クライアント側としては、長年使用して使い慣れたシステムを全て新しくするのではなく、現行のまま使用したい部分もあるでしょう。そのようなクライアントの細かい要望に応えつつ、システムの更新ができるのは、オーダーメイドでシステム開発・運用ができるSIerの強みと言えます。
SIerの求人は多く安定している
SIerの求人は多く、比較的安定しています。金融業界や官公庁から、安定した需要があるためです。SIerの中には自社開発を行う企業もあり、しっかりと就職する企業を選べば、安定した需要が見込める手堅い企業でエンジニアのスキルを磨くことも可能です。エンジニアとしてスキルアップができたら、転職や独立をし、さらに仕事の幅を広げていくこともできるでしょう。
SIerのITエンジニアが将来性を高める方法5つ
SIerのITエンジニアが将来性を高めるには、下記の方法があります。
- 需要が見込めるスキルを高める
- フリーランスになり独立する
- 副業を利用してスキルを高める
- 自社開発を行う企業への転職を考える
- 他の職種への転職を検討する
下記で、それぞれの詳細を解説します。
需要が見込めるスキルを高める
今後需要が見込めるスキルを習得することで、エンジニアとして活躍できる幅が広がります。例えば、AIやIoTの分野で使用されているPythonをはじめとして、PHPやJavaなどを習得するのがおすすめです。バックエンドエンジニアとしてもフロントエンドエンジニアとしても、仕事を請け負えるようになるでしょう。また、ある程度のプログラミングスキルが身についていれば、マネジメント職のスキルを磨くのも1つの方法です。エンジニアとしてキャリアを重ねていくと、マネジメントスキルを求められることがあります。システム開発には、プロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーなど、チームをまとめられる人材が欠かせないからです。マネジメントスキルを持っているエンジニアは重宝されるでしょう。
フリーランスになり独立する
SIerで培った経験を活かし、フリーランスとして独立し、自分のやりたい仕事を受注することも可能です。独立には個人事業主として開業するための専門知識やマーケティングスキル、確定申告などの経理の知識も求められます。SIerで働いている間に必要な知識を蓄えておけば、独立しやすくなります。
副業を利用しスキルを高める
副業を許可しているSIerに所属していれば、副業を利用してスキルを高めることができます。所属企業以外の業務に携わることで様々なエンジニアのスキルを身につけられるでしょう。実績作りや人脈作りにも役立てられ、そこからさらに仕事の幅も広げられる可能性があります。
自社開発を行う企業への転職を考える
自社開発をしている企業では開発スキル以外に、情報収集能力や分析能力、ニーズを把握する力など様々なスキルが求められます。自社開発企業に就職すれば、様々な経験を積めるため大幅なスキルアップが見込めます。働いているエンジニアも優秀な人が多い傾向にあり、よい刺激を受けられるでしょう。また、自社開発企業では自分のアイディアが採用される可能性がある点や、顧客や社内からのフィードバックも得やすい点がメリットです。自分の仕事が評価されれば、仕事へのモチベーションも高まるでしょう。
他の職種への転職を検討する
SIerで得たスキルを活かし、他の職種に転職するのも1つの手です。例えば、IT業界以外の企業に就職し、そのIT部門で社内SEとして働くケースもあります。社内のIT関連業務を一手に任されることもあり、SIerの知識が活かせるでしょう。また、Web系の企業では自社開発をしている企業が多いため、さらなるスキルを得て将来の独立に役立てられます。ほかにも、企業の経営戦略の実現や業務効率化をITの観点から支えるITコンサルタントや、顧客にIT商品を提案するIT営業職などもSIerの経験を活かせるでしょう。
まとめ
SIerは、将来性がないと感じている人もいるかもしれません。しかし、企業のIT化が進む中で、システム更新や大規模なシステム構築が求められているため、SIerは十分に将来性が見込めます。加えて、金融機関や官公庁からの大型案件を請け負うのは実績と信頼があるSIerであり、今後その需要が落ち込む可能性は低いため、安定して仕事が入ってくるでしょう。しかし、より将来性を高めるためには、使用できる言語を増やしたり、マネジメントスキルを磨いたり、副業を活用してスキルアップしたりすることも必要です。より高度なスキルをもったITエンジニアであれば、他社への転職も可能であり、今後も活躍の幅を広げることができるでしょう。