治具設 計とは?業務の基本的な流れや各工程のポイントを解説
ものづくりの加工を文字通り支える治具。製造業においては欠かせない存在です。そんな治具を設計するのが、治具設計の仕事です。本記事ではあまり耳馴染みのない言葉である治具と治具設計について分かりやすく解説していきます。
治具とは?
治具(じぐ)とは、材料を加工する際に用いられるもので、加工する物(ワーク)を固定して、加工しやすく補助する役割を担います。
たとえば背面が曲面状のワークを平らな作業台に置き、ネジを止めようとした場合、まっすぐにネジを刺すのが難しくなります。しかし、ワークの曲面に沿った形の台を使うことで、ワークが安定するためネジを正確に止められます。このように治具は安定した加工に役立つのはもちろん、生産性の向上といった点でも大いにその力を発揮してくれます。
治具を用いる目的
治具を用いる目的は、下記の3つです。
- 加工時間の短縮
- 加工の精度を高め、安定した品質を保つ
- 品質標準化
治具を用いることで、ワークが固定されるため安定した加工を行えるようになります。これにより長年、加工に従事してきた人でないと分からない固定のコツ等も必要なくなり、誰でも加工物の品質を一定に保つことが可能。これにより加工時間の短縮も見込まれます。
治具を用いるメリット
加工に治具を用いると、次のようなメリットが得られます。
- 人的ミスの予防と減少
- 不良品の発生の減少
治具を用いることで、加工時に過去の経験や勘に頼る部分が圧倒的に減ります。誰が行っても一定の品質を保てるようになることから人的ミスの予防効果があるのと同時にミスの減少も見込めます。ミスが減少すれば不良品の発生率も減少。相対的に歩留まり率を高められるでしょう。
治具の種類
治具とひと言で言っても、その種類は10個ほどあります。ここでは治具の種類と各治具が持つ特徴について紹介します。
切断治具
切断治具は、ワークを決められた角度やサイズに切断する際に用いられる治具です。刃物とワークがズレないように固定する役割を持ちます。身近なものでいうと、裁断機が切断治具に該当します。
曲げ治具
曲げ治具は受け具のうえにセットした板金などのワークを、上からの力で円筒や半円といった形に曲げるための治具です。受け具と押し付け部がセットになっているものがほとんどです。
溶接・溶着 治具
溶接・溶着治具はワーク同士を接着させる、溶接加工などの際に用いられる治具です。熱・超音波・振動などにより、ワークを溶かして接着します。ポリエチレン製の袋を接着する際に用いられるシーラーなどが該当します。
熱処理治具
熱処理治具は熱処理を行う際にワークを固定するための治具です。600℃から1000℃を超える高温環境にも耐えられる耐熱鋳銅が使用されていることが多く、反りやゆがみがでないようにワークに合わせた形状になっています。
塗装治具
塗装治具は、ワークを塗装する際に使用される治具です。吊り下げタイプや回転タイプなど、全方向からワークを塗装できるものや、ステンシルのように塗装したくない部分を隠すタイプのものがあります。また、文字が切り抜かれたものもあり、誰でも簡単に塗装できるよう補助してくれます。
めっき治具
めっき治具とはめっき処理をする際に、液体のなかでワーク同士がぶつからないように固定するための治具です。耐熱性や耐薬品性など、めっきの条件に応じた性能を持ちます。
組立治具
組立治具とは、ワークの組立をスムーズに行うための治具です。部品を正しい位置に置き、固定するのに用いられます。ネジ締めや、ワーク同士を潰したり締め付けたりして固定するカシメ治具は組立治具に分類されます。特に同じ製品を大量生産する場合には必須となる治具です。
挿入治具
ワークをパーツに挿入する際に用いられる治具です。作業者の手にかかる負担軽減を目的としています。
引抜治具
引抜治具は、自動車やバイク等のギヤ、ベアリングといった部品を取り外す際に用いられる治具です。プーラーなどが該当します。台座を固定し、垂直に引き抜けるのが特徴です。
検査治具
検査治具は、検査・測定をする際にワークを固定するための治具です。たとえばスマートフォンに使用される部品など、ノギスやスケールで測るのが難しい場合において、寸法や形状などが規格を満たしているかを測定するために用いられます。測定治具とも呼ばれます。
治具設計の流れと作業内容
次に治具設計の流れと作業の内容を見ていきましょう。治具設計において最も重要なのは、顧客とのヒアリングです。ヒアリング後のすべての工程に影響が及ぶため、顧客の要望を正確に聞き出す必要があります。
1.顧客とのヒアリング
まずどのような治具を必要としているのか、現場での課題や治具に求める機能を顧客にヒアリングします。顧客から聞き取った内容に沿って治具を設計・製作をするため、ヒアリングは治具設計において最も重要な工程です。事前にワークやワークの図面データ、治具の仕様書などを共有してもらい、共通認識が持てるよう工夫してヒアリングを行いましょう。
2.見積り作成
顧客の要望に沿った治具の製作に必要な材料費や加工費、設計費を含めた金額を算出します。その後、各項目の費用が明記された見積り書を作成して、顧客に提示します。
3.治具設計・仕様の確認
見積りの提出後、発注がかかったらヒアリングした内容をもとに治具の設計を行います。この際、治具とともに用いる工具や工作機械を考慮して、治具の精度や表面仕上げの必要性なども検討します。設計図が完成したら、仕様書との整合性を顧客に確認してもらい、整合性が取れたら製作に入ります。
4.加工・製作・組立を行う
設計図の整合性が取れたら、治具の加工・製作に取りかかります。治具を構成する部品を組み立て、検査や寸法チェックを行ったうえで試運転をして、問題なければ納品します。なお、仕様が複雑になればなるほど、製作日数が長くなります。
治具設計で重要な4つのポイント
治具設計を行う際に重要なポイントが4つあります。簡潔にいうと、治具の役割上、正確な位置や角度を保ったまましっかり固定できるかどうかが治具設計では求められるということです。
位置決めの再現性が高い
加工や組み立てではワークを設置する位置が毎回同じになることが求められます。ワークを変えるごとに位置が変わると、品質を一定に保つのが難しくなるからです。そのため、治具設計では設備と治具の間にピンを差し込むなど、位置決めする際の再現性の高さを重視した構造にする必要があります。
平面・平行・直角の精度が高い
治具自体の平面度・平行度・直角度が高精度に保たれていないと、ワークの加工精度も落ちてしまいます。そのため、ワイヤー放電加工機やマシニングセンタなどの設備を使い分け、研削加工機で平面度・平行度・角度の精度を高める調整を行う必要があります。
対象物の固定ができる
位置がしっかり決まったとしても対象物を固定できておらず、ズレが生じてしまった場合も同じく精度の高い加工を実現できません。しかし、ワークの変形や傷が入ってしまうため、ただ押さえつければ良いというわけでもありません。そのため、固定においては次の3つの条件を満たすことが大切です。
- ワークの確実な保持が可能
- ワークが変形しない
- ワークに傷がつかない
過度な力で押し付けて固定するのではなく、適切な力で保持できる設計が求められます。
生産性・作業性の向上ができる
治具を導入するメリットに「品質の標準化による生産性の向上」があります。しかし、治具の構造や使い方が複雑だと使いこなせない人が出てしまい、生産性の向上どころか生産コストが高まる可能性が出てきます。そのため、治具はできるだけ構造・使い方がシンプルであることが大切です。
また、加工の際に品質にバラつきがでないよう、設計段階から使い方を想定しておく必要があります。治具が完成したら実際に使ってみて、使いづらい点がないかの確認も怠らないようにしましょう。
治具設計の就職・転職に役立つ経験
求人情報を確認すると、3DCAD/CAMの使用実務経験が条件になっているところがあるため、治具設計の就職・転職では、これらの使用経験があると有利になると考えられます。ただし、未経験でもOKな企業も多いため、3DCAD/CAMの使用経験がない場合でも採用されるチャンスはあります。
3DCADの使用実務経験
そもそもCADとはComputer Aided Designの略で、日本語では「コンピュータ支援設計」と訳されます。簡単にいうと、コンピュータで設計ができるツールです。もともと手書きしていた図面をデジタル化してコンピュータ上で再現できるようにしたのがCADというわけです。CADはソフトウェアのメイン機能によって「2DCAD」と「3DCAD」に分けられます。
両者の違いは平面図か立体図かです。2DCADでは平面図の設計できますが、3DCADは立体図での設計が可能です。治具設計の求人を確認すると、3DCADの使用経験を条件に挙げている企業もあるため、治具設計の就職・転職に優位に働くと考えられます。
CAMの使用実務経験
CAMとはComputer Aided Manufacturingの略で、日本語では「コンピュータ支援製造」と訳されます。CAMはCADなどで作成した図面データをもとに、加工プログラムを作るソフトです。物を加工する際に必要なソフトで、治具設計においてもこのソフトが用いられます。そのため、CAMの使用実務経験がある方が、就職・転職の際に有利になりやすいでしょう。
まとめ
治具はものづくりの効率化において欠かせない存在です。そのため、治具設計はものづくりを陰ながら支える縁の下の力持ちとも言える仕事でしょう。引いてはものづくり大国である日本を支える重要な役割の一翼を担っていると言っても過言ではありません。治具設計に興味がある人は、これを機に求人に応募してみるのもありではないでしょうか。